紫の気まぐれ映画日記

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映画『ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』考察レビューまとめ!屈指の名作リメイク、その魅力と奇跡

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ストーリー

夏休みのある日。のび太が拾った小さなロケットの中から、手のひらサイズの宇宙人・パピがあらわれる!彼は、宇宙のかなたにある小さな星・ピリカ星の大統領で、反乱軍から逃れるために地球にやってきたという。最初はパピのあまりの小ささに戸惑うドラえもんたちだったが、ひみつ道具“スモールライト”で自分たちも小さくなって一緒に遊ぶうち、次第に仲良くなっていく。ところが、パピを追って地球にやってきたクジラ型の宇宙戦艦が、パピをとらえるためにドラえもんのび太たちを攻撃。みんなを巻き込んでしまったことに責任を感じたパピは、ひとり反乱軍に立ち向かおうとするが……。
大切な友だちと、その故郷を守るため、ドラえもんたちはピリカ星へと出発する!!

 

https://www.toho.co.jp/movie/lineup/doraemon2021.htmlより引用

 

目次

 

宇宙小戦争2021を徹底考察レビュー

今作は、1985年に公開された、ドラえもんの大長編シリーズの第6作「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争」のリメイク作品です。

当初は2021年3月に公開予定でしたが、新型コロナウィルスの影響を受け、1年間公開が延期されました。なのでリメイク版の名前も「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021」のままですね。

 

さて、新体制のドラえもんになってからも、何作も旧大長編のリメイクが公開されてきましたが、今回は数ある大長編原作の中でも屈指の名作と名高い、「宇宙小戦争(リトルスターウォーズ)」が待望のリメイクで登場です!

近年ドラえもん作品はとにかく作画のクオリティが高く、特に映画となるとその気合いの入り様は凄まじいので、リアルであり、またドラえもんらしさを損なわない暖かさもある、不思議な映像美を存分に堪能出来ます。

今回の映画は、題名からも分かる様に宇宙をまたに掛けた壮大なSFストーリーであるため、映画館の大きなスクリーンと音響で観るにはピッタリ!

実際今作の出来は素晴らしく、映像だけで言えば歴代映画の中でも1位と言って過言ではない出来だったと思います。

今回もネタバレあり、なしの両方で感想・考察を綴っていきたいと思いますので、是非是非最後までお付き合いくださいませ。

 

 

宇宙小戦争2021のネタバレなしレビュー

私は、何を隠そうドラえもんの大ファンです。今までの大長編映画シリーズは、旧作から今回の新作まで、全41作の全てを観ております。

あまりにも有名なドラえもんシリーズですが、まだ映画をご覧になっていない方の中には、旧作シリーズのファンゆえに新作シリーズを観ていない方や、子供向けコンテンツと遠慮してる方も多いと思います。

ここでは、そんなまだ映画を観ていない方に、是非映画を観て貰えるよう、本筋のネタバレなしで、特にオススメしたい箇所をレビュー(というかもはやプレゼン)していきたいと思います!

 

とにかく映像美が凄い!

先程も書きましたが、今作の見どころはなんといっても迫力ある映像、バトルやアクションシーン!

皆さんは、『板野サーカス』という言葉をご存知でしょうか。

「超時間要塞マクロス」シリーズなどのミサイルが飛び交う戦闘シーンで見られる、“高速で動く物体を、高速で動くカメラが追う”様な映像演出の事であります。

今回、この『板野サーカス』ばりの迫力あるバトルシーンが、ドラえもんの映画で観られるのです!

バトルシーンだけ観たら、きっとこれがドラえもんの映画だとは誰も思わないんじゃないでしょうか。それくらい、今作のバトル・アクションシーンは気合いが入りまくっておりました。これだけでも、映画館で観る価値アリアリです!

またオープニングでは、スネ夫宅でドラえもん達がミニチュア特撮の撮影をしているシーンが出てくるのですが、その時に映るジオラマや、パピの故郷ピリカ星の街並みなどは、実際にミニチュアを制作して、それをアニメーションに合成しているんだとか!しっかりアニメーションなんだけど妙にリアルな質感は、観ていてとても不思議な感覚になります。

そして、そんな素晴らしい映像を背景に、今回メインキャラとして出てくるパピというキャラクターは、手のひらに乗ってしまう程の小さな宇宙人。このパピから見た時の、のび太達地球人の大きさの見せ方や、逆にのび太達から見たパピの小ささの対比など、カメラワークもすごく上手い!その辺りの映像技術も大注目ポイントです。

 

 

宇宙小戦争2021のネタバレありレビュー

さぁ、ここからはネタバレありでどんどん感想・考察書いていきます!

ネタバレしたくない方、まだ映画を観てない方は、要注意でご覧になってくださいね!

 

旧映画「宇宙小戦争1985」との違い

リメイク作品といえば、旧作とどこを変えてくるのか、どこまで改変するのかが1番気になるところですよね!

このレビューを書くにあたって、旧作の「宇宙小戦争1985」も鑑賞し直しました。新旧ともに全体的に大まかなストーリーラインは変わらないものの、新作にはかなり大胆に改変された部分があったので、印象的だった所をいくつかご紹介したいと思います。

 

1. オープニングの演出

ここ最近では珍しくないですが、のび太の「ドラえもーーーん!!」の掛け声と共に始まるオープニング曲はナシ。代わりに、ネタバレなしレビューでも書いた、リアルなミニチュア撮影の様子をバックに、往年の特撮ムービーを思わせる様なフォントの縦書きのクレジット。

そしてその撮影した動画を出来杉くんがパソコンで編集しているのですが、別撮りで水槽に液体を流し込み回転させる事で爆発雲を作り出し、切り取って撮影した映像に合成。現代らしく見事な合成技術で本物と見紛う映像を作り上げたりして、これがオープニングとしてサラッと流して見せてくれるものだから、「(実際には知っているにも関わらず)これから何が起こるんだろう!」と一気に引き込まれる、非常にワクワクする素晴らしいオープニングとなっていました。

 

2.  姉ピイナの存在と、パピの行動

旧作では、パピは優秀ゆえになんでも1人でこなしてしまう天涯孤独の少年大統領、という立ち位置でしたが、今回の映画には、良き理解者であり唯一の家族であるお姉さん、ピイナというキャラが登場します。映画冒頭でパピを逃がし、自身はピシアに捕まりずっとピリカ星にいるので、そこまで出番がある訳ではないのですが、このピイナの存在が、後々響いてくる事になります。

旧作ではストーリーの中盤で、パピは人質となったしずかちゃんを助ける為にピシアに捕まり、そのままピリカ星に連行されてしまいますが、今作ではなんとロコロコが一足早く登場し、ロコロコと共にのび太達が改造したラジコン戦車で助けに来ます。

その時のパピとしずかちゃんを守る戦車隊のカッコ良さときたらもう!ここだけでカッコよすぎてちょっと涙出そうでした。

そんな訳で、パピを無事奪還してしまったので、あれ、ピリカ星にはいつどうやって行くの、となっていた所で、姉ピイナの登場!ピシア長官のドラコルルから連絡が入り、姉を処刑されたくなかったらお前からピリカ星に来て、親玉独裁者のギルモアの戴冠式に出ろ、と脅してくる訳です。なーるほど。

これで晴れて皆でピリカ星に向かう事になるのですが、ピリカ星に向かう途中の宇宙船の中で、旧作にはなかったパピとのび太達の交流が描かれる事になります。旧作ではパピはあっという間に誘拐されちゃって、その後処刑シーンまでほとんど会話もなかったですからね。ここは良い改変だと思いました。

特に良かったのが、スネ夫の「怖いよ嫌だよ」のウジウジをパピが感じ取って、スネ夫の部屋を直接尋ねるシーン。この後に続く、ドラえもんシリーズ中、1番であろうスネ夫の見せ場をより輝かせる良いシーンでした。

スネ夫って、スネ夫なりに怖くてもやらなきゃいけない事は分かっているのですが、やっぱり怖いもんは怖い。いや、そりゃそうだよね。きみ達小学生でしょ。スネ夫の反応は1ミリも間違ってないよ笑。

子供の頃に観てた時はスネ夫のウジウジをイラッとして観ていたけど、大人になって観てみると、むしろスネ夫以外の子達が良く言えば勇敢だけど、怖いもの知らず過ぎてヒヤヒヤするよね笑。

そして自由同盟軍と合流した後で、結局単独行動してピシアに捕まったパピは、ギルモアの戴冠式で強要されたスピーチを利用して、国民に向かって独裁者に立ち向かう勇気を持つ大切さを説きます。旧作では法廷でギルモアに対してのみ発したスピーチを、敢えて捕まる事で国民に聞かせたパピの作戦と、それによって立ち上がる国民達をより細かく描写した事、ここも良い改変でした。

そして全てが解決した後、のび太達がピリカ星の人々に表彰される中、ピイナとパピは一瞬会場から抜け出します。そこで今までの緊張の糸が切れたのか、パピはピイナの腕の中で初めて泣くのです。8歳で大学を卒業して、大統領にまで選ばれたパピですが、本当はまだまだ小さな男の子。この辺りのパピの人物像の掘り下げにも、ピイナという新キャラがひと役買っていましたね。

 

3. スネ夫の見せ場の圧倒的カッコよさ

旧作新作ともに、「宇宙小戦争」といえばスネ夫が最も輝く作品。もはや唯一のスネ夫回と言ってもいい。今回、このスネ夫の見せ場である、捨て身でしずかちゃんを庇うシーンとその後のスネ夫無双が、ほんっと〜にカッコよく描かれていました!

そもそもラジコン戦車が無双するほど強くなったのは、戦いに出るのは怖くても、ラジコン整備が得意なスネ夫が「きっと自分にしか出来ない事がある!」と寝る間を惜しんで整備し続けたお陰でもあるし、いざ敵が攻めてきたら逃げてはいけないと分かっていてもやっぱり怖くて怖くて、ついにはしずかちゃんにも置いていかれる中、勇気を振り絞って出撃して、さらにそれだけ怖がってたのに、しずかちゃんの為に身を呈して敵から庇うーーーもうスネ夫100点じゃない?!

そしてその後、自分の整備したラジコンが最強強度を誇る無敵戦車になったと分かった後の、自信を取り戻したスネ夫の戦車無双たるや!!元々操縦スペックの高いスネ夫が、その才能を遺憾なく発揮して敵を撃ち落としていくのは、観ていて本当に涙が出ました。このシーンは是非全人類に観ていただきたい。

ここに関しては完全に旧作を超えてました。ありがとう制作陣!!

 

4. 挿入歌、エンディング

さて、今までは良かった改変を書いてきましたが、ここでちょっとだけ残念だったなと思った箇所を。

旧作の映画を名作たらしめた要因の1つに、“音楽の力”というものがあったと思うんですよね。特に武田鉄矢が歌う主題歌の「少年期」が素晴らし過ぎたというのもあると思うんですが、やっぱり「宇宙小戦争」=「少年期」という印象が強い。

戦争に参加しているというシチュエーションにも関わらず、どこか冒険の延長線の様に構えているのび太達ですが、この独特の哀愁漂う「少年期」が流れる事によって、セリフがなくても、戦争に対する哀しみや虚しさみたいな物を上手く表現していたと思うんです。

今回の新作では曲が一新、主題歌にはOfficial髭男dismによる「Universe」、挿入歌には(どこか「少年期」を思わせる様な)ビリー・バンバンの「ココロありがとう」が起用されています。これらも決して悪い訳ではなく、むしろ普通に良い曲なのですが、どうしてもどこかでもう1度「少年期」を期待してしまう自分がいました。もし、ほんの1シーンでも、「少年期」のカバーか、メロディーだけでも流してくれていたら、それだけで今作の評価は数十倍にも膨れ上がっていたでしょうね。これは完全に、旧作を知っている大人ならではのワガママなのだと思いますが……。

 

5. その他の違い

今回ご紹介した改変以外にも、最強の敵長官ドラコルルがより思慮深く潔い人物として描かれていたり、終盤ドラコルルによるスモールライトおとり作戦が追加され、のび太くんだけが逃げ延びて漢気を見せる見せ場があったり、その他諸々の細かい演出など違いはたくさんありましたが、書き出していくとキリがないので、是非皆さんも旧作と新作を見比べて、良かった所やそうでなかった所を楽しんで頂けたらと思います!

 

 

この時期にこの内容の映画が公開された偶然

これは完全に偶然だとは思うのですが、1年の公開延期を経て、今このタイミングで「宇宙小戦争2021」が公開された事、奇しくも“パピ達自由を求めて立ち上がる国民”と、“独裁者として侵略を続けるピシア軍”という構図や、原作にもある侵略軍に向かって出撃するしずかちゃんの「このまま独裁者に負けちゃうなんてみじめじゃない!やれるだけのことをやるしかないわ」という印象的なセリフなど、今のウクライナとロシアの情勢に見事に重なる形となってしまいました。

ドラえもんの「宇宙小戦争」では、国内での自由軍と独裁軍との内戦を描いており、今のウクライナ・ロシアの様な国を跨いだ問題ではないし、もちろんドラえもんはフィクションであり、強いメッセージ性のあるアニメであっても、あくまで娯楽の一種です。対して今世界で現実に起きているのは本物の戦争・戦闘であるので、決して同じ様に扱うものではないですが、それでも今回「宇宙小戦争2021」を観ながら、何かを重ね合わせずにはいられませんでした。

 

きっと制作陣はおろか、原作者の藤子・F・不二雄先生ですら、まさか今こんな状勢になるとは思ってもいなかったと思うので、それでもこのタイミングで公開に踏み切ってくれた事、そして偶然だとしても、この時期にこの映画を我々や子供達が観れるという事に、何か不思議な力を感じてしまいます。

去年の時点で公開されていたら、おそらく単純に楽しい冒険SF映画、となっていたのでしょうが、今回ばかりは、それだけではない、何かを感じざるを得ない映画体験となりました。

(ちなみにこれも完全に偶然でしょうが、パピの胸のペンダントの配色が、ウクライナの国旗の配色を逆にしたものとなっていますね。これは旧作からのデザインなので、つくづく不思議な偶然です。)

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まとめ

総合して、今回の映画の出来は素晴らしく、とても興味深く鑑賞する事が出来ました。

いちドラえもん作品ファンとして、そして今この時期だからこそ、是非観ていただきたい「宇宙小戦争2021」。

旧作を知る方も、初めて観る方も、きっと何かしら、心に響くものがあるはずです。